当院の夜尿症治療
夜尿症は、お子さまの成長が進むにつれてコンプレックスにつながりやすいことから、現在では就学前に適切な治療を受けることの有効性が広く認識されるようになってきています。以前は経過観察が主流でしたが、夜尿症に関与するさまざまな要因も解明されてきており、効果を期待できる治療が可能です。
夜尿症の治療で最初に行うことは、「生活習慣の見直し」です。夕食後の水分摂取を控えたり、寝る直前に必ずトイレに行くようにするだけでも、夜尿がなくなる子もいます。
まずは、1週間ほど排尿記録をつけていただき、その結果をもとにアラーム療法や薬物療法の開始を検討します。治療は、どちらか一方から始める場合もあれば、より早い改善を目指してアラーム療法と薬物療法を併用して開始する場合もあります。
日本夜尿症・尿失禁学会ではどちらの治療も同じレベルで推奨されています。夜尿症のタイプや生活スタイルに応じて治療法を選択しますが、アラーム療法はご家族の負担が比較的大きいため、当院では薬物療法から開始するケースが多いです。
夜尿症において
日常生活で気を付けること
夜尿症の治療で最初に行うことは、生活習慣の見直しです。当クリニックでも、夜尿症の治療を希望される方に対して、普段の生活リズムを詳しくお伺いし、夜尿の原因となっている可能性がある習慣があれば、改善のためのアドバイスを行っています。生活習慣が整っていないと、薬物療法やアラーム療法を行っても十分な効果が得られません。
具体的には、次の点に注意してみましょう。
夕食は早めに食べましょう
摂取した水分の80%が3時間後に尿として排泄されるというデータがあります。そのため、就寝の3時間前には夕食を終えることが理想ですが、難しい場合は2時間前を目指しましょう。
夕食の内容にも気を配りましょう
塩分を多く含む食品、緑茶、フルーツ、ソフトドリンクなどには利尿作用があるので、夕食時や就寝前には摂取を控えるようにしましょう。
夕食後は水分を控えましょう
夕食後の水分摂取の目安は、コップ半分~1杯程度までです。入浴後に喉が渇いてしまう場合には、夕食前にお風呂を済ませておくのも効果的です。夏場でも、日中にしっかりと水分をとっていれば、脱水を心配する必要はありません。
寝る前に必ずトイレに行きましょう
就寝前にはトイレに行く習慣をつけましょう。また、寝る前のスマートフォンやタブレットの使用は入眠を妨げる原因となるため、就寝の1時間前からは使用を控えることをおすすめします。なかなか寝つけないときは、もう一度トイレに行って完全に排尿を済ませるようにしましょう。
寝るときは体を冷やさないようにしましょう
体が冷えることで尿が増えてしまいます。また膀胱も収縮するため夜尿の原因となります。
便秘に注意しましょう
便秘によって直腸が拡張すると膀胱が圧迫され、夜尿が起こりやすくなります。昼間にしっかり水分を摂り、食物繊維を多く含む食事を心がけましょう。
ただし、生活習慣の改善だけでは便秘がなかなか解消しないこともあります。当院では、必要に応じて飲み薬や浣腸を使用し、便秘の治療も並行して行います。
アラーム療法
アラーム療法は、夜尿(おねしょ)が起きたタイミングで音や振動で知らせる機器を使用する治療法です。下着やパッドに取り付けたセンサーが尿の湿りを感知すると、アラームが鳴り、こどもが目を覚ますように働きかけます。
アラーム療法の正確な作用機序はまだ明らかではありませんが、膀胱がいっぱいになった際に「起きてトイレに行く」という反射が徐々に形成され、夜尿の改善につながると考えられています。現時点でアラーム療法に使用する機器は保険適用外となっており、レンタル料として月々約2,000円の自己負担が発生します。治療の継続期間にもよりますが、全体で8,000円~10,000円程度の費用がかかることが一般的です。当院では以下の2種類のアラームをご提案しています。
アラーム療法の有効性
アラーム療法の有効性は薬物療法の主軸である「ミニリンメルト」とほぼ同等で、約70%のお子さまに効果があります。
アラーム療法に向いているケース
アラーム療法は毎日継続することで効果を発揮する治療です。以下のようなケースでは特に適しています。
- 夜尿の頻度が多い(週3日以上)
- お子さま本人やご家族の治療へのモチベーションが高い
- 一晩の夜尿が1回のみである
一方で、きょうだいと同じ部屋で寝ており、アラーム音で起こしてしまうことが心配な場合などは、実施が難しいこともあります。
アラーム療法の手順
- 寝る前に専用のおむつにセンサーを取り付け、電源をONにします。
- 尿が出るとセンサーが反応し、アラーム音やバイブレーションが作動してお子さまを起こします。(お子さまが自分で起きられない場合は、保護者の方が起こしてあげてください。)
- 可能であればトイレに行き、残りの尿を排出します。
- 一晩につき1回のトレーニングを基本とします。アラームが鳴った後は電源をOFFして、朝まで眠ってかまいません。
アラーム機器のメーカー公式サイトには、使い方を紹介するわかりやすい動画も掲載されています。ぜひそちらもご覧ください。
アラーム療法に関する
よくある質問
治療期間はどのくらいですか?
アラーム療法の効果を実感するまでには、通常1~2か月ほどかかります。効果がみられたあとも再発を防ぐために、少なくとも3か月間は継続することが推奨されています。
毎晩起きることで体に悪影響はありませんか?
アラーム療法による副作用は報告されていません。成長ホルモンは就寝直後から約3時間の間に最も多く分泌されますが、夜尿が起こるのは多くの場合、深夜から明け方(就寝後3時間以降)です。そのため、成長への影響はほとんどないと考えられます。
また、アラーム療法で十分な効果が得られない場合は、漫然と続けるのではなく、3~6か月を目安に治療方針を見直します。したがって、夜間にお子さまを起こし続ける日々が長期間続くことはありません。
夜尿症の薬物療法
夜尿症の薬物療法は昼間のおもらし(昼間尿失禁)があるかどうかによって治療方針が異なります。割合としては、夜尿のみのタイプが約75%で、昼間のおもらしがあるタイプが約25%です。
夜尿のみのお子さまの治療
夜尿のみタイプのお子さまには、デスモプレシン(ミニリンメルト)という薬を用いることが一般的です。
ミニリンメルト
抗利尿ホルモンの製剤で、尿を濃縮して、排尿量を減らす作用があります。
夜尿症の原因の1つとして、「睡眠中に作られる尿量が多い」ことが挙げられます。これは本来、就寝中に多く分泌されるはずの抗利尿ホルモンが十分に分泌されないために起こります。ミニリンメルトを服用することで、夜間の尿量を減らします。
服用方法
- 1日1回、就寝前に服用します。
- OD錠(口腔内崩壊錠)という唾液で溶けるタイプのものです。舌の裏に置き、水なしで服用します。
- 夕食後すぐに飲むと効果が弱まる可能性があるため、夕食後から2時間程度あけて服用するのが理想です。
副作用と注意点
主な副作用として低ナトリウム血症(水中毒)があります。
夕食後に水分を摂り過ぎた状態でミニリンメルトを服用すると、体の中の水分が過剰となり、吐き気や頭痛などの症状が出る可能性があります。
そのため、夕食後に200ml以上の水分を摂取した日は、就寝前のミニリンメルトの服用を控えましょう。
昼間もおもらしがあるお子さまの治療
昼間にもおもらしがあるタイプのお子さまは、膀胱の機能が未熟であることが原因となっていることが多くあります。
また、便秘によって直腸が拡張し膀胱を圧迫することで、昼間のおもらしや夜尿が悪化することもあります。
治療の進め方
まずは、便秘がある場合には便秘の治療と、排尿指導(行動療法)を行います。これらによって膀胱機能が整うことで、昼間のおもらしが改善するケースも多くあります。
それでも改善がみられない場合には、膀胱の過剰な収縮を抑える薬(抗コリン薬)の使用を検討します。
ベシケア・バップフォー(抗コリン薬)
膀胱の筋肉の緊張を和らげて、一度にためられる尿の量を増やす薬です。
これにより、頻尿や尿失禁(おもらし)の改善が期待できます。
抗コリン薬の副作用として、口の渇き・便秘・顔のほてりなどがみられることがあります。特に便秘が悪化すると膀胱が圧迫され、夜尿やおもらしの原因となるため、注意が必要です。
夜尿症の薬物療法に関する
よくある質問
ミニリンメルトの効果はどのくらいで出ますか?
尿量を減らす効果は比較的早く現れます。おねしょをしても下着の濡れが少なくなったり、おむつの重さが軽くなったりといった変化は多くの方で実感できます。当院ではまず2週間ほど内服を続けて効果を確認し、夜尿の回数が減らない場合には薬の増量を検討します。なお、薬を増やしても副作用が増えることはなく、効果の持続時間が長くなると考えられています。
薬を始めてから、どのくらいで夜尿がなくなりますか?
個人差はありますが、半年〜1年ほどでの改善・治癒を目指します。治療開始時に毎日夜尿があるお子さまと、週に2〜3回程度のお子さまとでは、治るまでの期間に違いがあります。
夜尿がなくなったら、薬はすぐにやめられますか?
ミニリンメルトは、急に内服を中止すると、夜尿が再発しやすいことが知られています。そのため、夜尿がなくなった後もすぐにやめず、薬の量を少しずつ減らしたり、1日おきにするなどして、数か月かけてゆっくり中止していくのが一般的です。
夜尿症治療の注意点
保護者の方へのお願い
むやみに起こさないようにしましょう
睡眠中に無理やり起こすことで、抗利尿ホルモンの分泌が低下し、尿量が増える可能性があります。
※夜尿アラームは、膀胱がいっぱいになったタイミングで起こすトレーニングであり、むやみに起こすこととは異なります。
なお、宿泊行事など特別な場面で、決まった時間に起こしてもらいトイレに行くといった対応は、短期間・限定的なものであれば問題ありません。
怒らない・叱らないにしましょう
おもらしやおねしょは、こどもの意思でコントロールできるものではありません。怒ったり叱ったりするのは逆効果であり、治療のモチベーションを下げてしまいます。おねしょをしてしまった日でも、できたこと(水分制限ができた、寝る前にトイレに行けたなど)に目を向けて、褒めてあげましょう。
排尿日記をつけましょう
夜尿症の治療では、日々の排尿状況を記録することがとても大切です。お子さまと一緒に記録をつけることで、排尿のリズムや改善の傾向がわかりやすくなります。記録用紙は当院でお渡ししますので、受診の際にご持参ください。
